東京地方裁判所 昭和62年(ワ)12503号 判決
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1. アメリカ合衆国ハワイ州第一巡回裁判所民事第七七〇二一号損害賠償請求事件について同裁判所が一九八五年(昭和六〇年)一二月二四日言渡した判決に基づき、原告が被告に対し強制執行をすることを許可する。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 原告は被告に対し、一九八三年(昭和五八年)四月、ハワイ州第一巡回裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したところ、同裁判所は、一九八五年(昭和六〇年)一二月二四日、被告に対し、右損害額二万二七九五ドル及びこれに対する一九七九年(昭和五四年)一〇月二四日から一九八四年(昭和五九年)九月六日までの利息八〇四五ドル五四セント並びに弁護士費用一三九六ドルの支払を命ずる原告勝訴の判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡した。被告は右判決に対し同州法の定める期間内に控訴を提起しなかったので、右判決は確定した。
2. 本件外国判決は、次のとおり民訴法二〇〇条各号の要件を充たしている。
(一) 同条一号について
わが国においては、民事事件について特に外国裁判所の裁判権を否定する条約及び法令は存在しないところ、わが国の民訴法五条は、義務履行地の裁判所に管轄権を認めているから、履行地をハワイ州とする契約上の損害賠償義務の履行を求める本件外国判決にかかる訴訟については、ハワイ州第一巡回裁判所に裁判管轄権が認められるものである。
(二) 同条二号について
本件外国判決にかかる訴状及び期日呼出状は、ハワイ州の法令に基づき、原告の代理人によって郵便により被告に送達されている。
思うに、民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(昭和四五年条約第七号)一〇条は、裁判上の文書の直接郵送につき各宛国が拒否を宣言することができる旨定めているのに、日本は、この拒否の宣言をしていないし、民事訴訟法が施行された当時に比較して、はるかに国際化が進んでいる現況に鑑みれば、本条二号の要件を充たしたというためには、被告に対し、訴訟の開始の告知及び防禦の機会を与えるために適切な方法による送達がなされたことをもって足りると解すべきものである。
わが国における英語教育は中学校から大学卒業まで一〇年の長きに及んでいるうえ、被告は法政大学経済学部を卒業しているのであるから、少なくとも英和辞典を参照しさえすれば本件文書の概要を知り得たというべきであって、本件では右のような送達をもって本条二号の要件を充たすというべきである。
(三) 同条四号について
同条四号にいう「相互の保証」とは、国際法上の相互主義の観点からすれば、外国が日本国の確定判決の効力を認める要件とわが国が当該外国判決の効力を認める要件とを比較して同等か、あるいは少なくとも前者の要件が後者のそれよりも緩やかであることを意味するものと解せられる。
ところで、アメリカ合衆国ハワイ州においては、外国判決の効力を否定し又は明白に肯定するような法令あるいは判例、慣例の存在することは認められず、また、同国では、外国判決が、(1)正当な管轄を有する裁判所によってなされたものであること、(2)当事者が正当な通知を受け、答弁の機会を与えられていたこと、(3)判決手続は詐欺的なものではなく公の秩序に従ったものであることの各要件を充たした場合には、その効力が承認される。したがって、アメリカ合衆国ハワイ州においても、右のアメリカ合衆国の外国判決の効力に関する解釈に従うものと推認することができるので、同州の判決については、同条四号の要件を充たすものである。
二、請求原因に対する認否
請求原因1の事実は不知。同2の事実は全て否認ないし争う。
三、抗弁
1. (法二〇〇条三号の要件欠缺)
いかなる国においても、自己に不利益な判決を受けた当事者は、これに対し上訴して争う機会が与えられていなければならず、右は、裁判における基本的権利として絶対に保障されなければならないものである。しかるに、本件外国判決は、被告に送達されておらず、被告は、右の権利を全く保障されなかったのであるから、本件外国判決はその手続において公序良俗に違反するということができ、同条三号の要件を欠くものである。
2. (信義則違反)
本件請求は、原告が外国裁判所において全く虚構の事実を作りあげたうえ被告に対する欠席判決を取得し、日本において執行判決を得ようとするものであって、信義則に反する。
四、抗弁に対する認否及び反論
1. (抗弁1について)
本件外国判決が被告に送達されていないことは認める。
本件外国判決は、適法に裁判管轄権を有するハワイ州第一巡回裁判所においてなされたものであるから、その訴訟手続は同州民訴規則に従って行われるべきであるところ、同規則によれば、適法に訴状を送達したのにも拘わらず、被告が口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出しない場合には、判決を被告に送達することを要しない。したがって、本件外国判決が被告に送達されていないことをもって公序良俗に反するということはできない。
2. (抗弁2について)
抗弁2の事実は否認する。
第三、証拠<省略>
理由
一、1. 請求原因1の事実は、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証によればこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
2. そこで、同2の(二)の事実について検討する。
(一) 民訴法二〇〇条二号にいう「訴訟の開始に必要な呼出しもしくは命令の送達」があったというためには、通常の弁識能力を有する日本人にとって送られてきた文書が司法共助に関する所定の手続を履践した「外国裁判所からの正式な呼出しもしくは命令」であると合理的に判断できる態様のものでなければならず、そのためには、当該文書の翻訳文が添付されていることが必要であるというべきである。
この点に関しては、同条同号の趣旨が、十分な防禦の機会を与えられないまま敗訴した日本人被告を保護しようとするものであるから、送られてきた外国文書を受領した被告が語学に堪能であってその文書の内容を十分に理解できる場合には翻訳文が添付されていなくとも送達の効力を認めて良いとの考えもあろう。しかしながら、右のような個別的主観的事情を考慮しなければ文書の送達の効力を決せられないとすることは、文書を受領した被告の地位を不安定にするばかりか、後日の紛争を防止するために特に厳格な方式が要請される送達制度の趣旨や多数の事件を処理するために要請される訴訟手続の画一性及び安定性に著しく反することになり妥当でない。もっとも、このように解した場合には、わが国が民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約一〇条(a)の裁判上の文書の直接郵送につき適用拒否の宣言をしていない点が問題となるが、右はかかる郵送による通知行為としての事実上の効果を承認するにすぎず、外国においてなすべき新しい送達方法を積極的に創設したものとは解されないから、先の結論に影響を及ぼすものではない。
(二) 弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三を総合すれば、本件外国判決にかかる訴状及び呼出状は一九八四年(昭和五九年)一月四日、原告代理人により被告宛郵便に付されたが、これには翻訳文が添付されていなかったことが認められる。
そうすると、本件外国判決は、民訴法二〇〇条二号の要件を欠くことになるから、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求は理由がない。
二、よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 久保内卓亜 裁判官 菊池徹 齋藤繁道)